ことばにならないなにか

「ことばにならないなにか」を言葉で近似するそんな試み

面接で円周率を聞かれて答えられないほうが悪い

ちょっと前に、 twitterではこんなツイートが盛り上がってたみたいです。

このツイートをした人は、本気でこんなことを考えてるのか、ただの下手くそな炎上商法なのかよくわかりませんが、普通の人ならこのツイートを見て、「会社で働くのに円周率を言えることが必要なのか?」「この面接官は、大学の数学科では円周率を覚える必要があるとでも思ってるのか?中学生の時から、円周率の計算は全部πでするのが当たり前だろ!」と批判するわけです。

ましてや、就活中の人間にとって、面接でこんな質問されると、もうたまったもんじゃありません。面接の前に必死に業界分析して、会社分析もして、OB訪問もして、その会社のホームページやパンフレットを丸暗記する勢いで読み漁り、準備に準備を重ねた面接で、いきなり「円周率いってみて?」なんて言われたら...考えるだけでぞっとします。

もし僕が就活生だったら

でも、僕自身、採用面接で数学科の学生に円周率の値を尋ねる事自体、そこまで悪いことでは無いのでは?と思っています。

決して優等生の模範解答ではないですが、もし面接官に「大学で数学やってるんだ。円周率何桁まで言える?」と聞かれたら、僕ならこんな感じで答えてたと思います。

円周率は3.14までしか言えません。というのも、大学の数学科では、あまり具体的な円周率を使うことがないからです。じゃあ大学の数学科では何をやってるのかというと、例えば、ライプニッツ級数とよばれる、数学では有名な式があります。この式にはいま仰られた円周率が出てくるのですが、その円周率は3.14...という形じゃなくて、πという文字で与えられています...

きっと会議室にホワイトボードがあれば、面接官のウケが良ければ、3分のミニ講義が始まっていたことでしょう。

面接は会話のキャッチボール?

「面接では、面接官から言われたことに対して、素直に正確に答えなければいけない」と考える人はもちろんいると思います。「円周率言えるところまで言ってみて」といわれたら「3.1415まで言えます」と答えるのが正義だと思ってる人もいるでしょう。

その考えはその考えで尊重されるべきで、それを否定するつもりはありません。しかし、僕自身は、よく言われる言い回しを使うなら「面接とは、会話のキャッチボールがきちんとできるのかを確かめる場である」と思っています。「3.1415です」と答えるべきではないと思うのです。

もし仮に、円周率を100桁覚えていたとしても、100桁言った時点でキャッチボールが終わってしまいます。面接官に「円周率言える?」と聞かれたら、「3.141592...」と答えるのではなく、「いやいや、数学科が円周率言えると思ったら大間違いですよ(笑)」と答えるべきだと思うのです。

科学者の説明責任と今回の面接

少し難しい話をしますが、この問題は「科学者の説明責任」とも関わってくると思います。例えば、大学の教授などは、国から補助金を出してもらって研究を続けているんだから、国に税金を払ってる一般国民に対して、その研究の内容をわかりやすく伝える責任がある、というものです。

面接で「円周率言える?」と尋ねられた数学科の学生は、大学で3年間数学を学んできたはずです。それも、国から多くのお金を出してもらい、数学を学んできたはずです。学問をしているものとして、自分が何をやっているのか、何を研究しているのか、何を勉強しているのか、「数学」について何も知らない人に対しても、やさしくおもしろく説明できるべきだと思うのです。

普通の人は、大学で何を研究してるかなんて知らない

一般の人(今回の例では面接官)にとって、大学の数学科というのは何をやってるのか、全く想像のつかないところです。もし、このブログの読者が大学生ならば、自分の専門外の学部学科がどんなことをやってるのか、想像もつかないと思います。例えばみなさんは、経営学部は何をやってるのか知ってますか?「会社経営でいかに利益を出すか」を勉強していると思ってないですか?経営学とはそもそも「人間の集合である組織の活動」を研究する場所であることを知っていますか

大学生や研究者でさえ、自分の専門外の学部で何をやってるかといった知識は疎かです。ましてや一般人が、大学の数学科で何をやってるのか、正確に理解するのは至難の業です。

一般の人なら、数学と聞いて、「円周率って、確か3.14以降、どこまでも続くんだよな。」と思いつくことは自然です。なので、一般の面接官が、会話のキャッチボールをしようと、数学科の学生に対して、「大学で数学やってるんだ。大学生にまでなって数学をやり続けるってすごい情熱だね!じゃあ、円周率って何桁まで言えるの?言えるところまで言ってみてよ?めっちゃ言えるの?」と尋ねることは、概して自然であると思うのです。むしろ、その質問に対して、「いやいや、数学科はそんなことしてませんよ(笑)」と、一般市民に丁寧に説明できない学生の方に問題があるのでは?と思うわけです。

 

就職活動は、その人の人生を決める一大イベントであるがゆえに、超巨大なマーケットで、いろんな人がそのマーケットに参加しています。様々な人が「就活とはこうあるべきだ!」「面接でのマナーはこうしろ!」「グループディスカッションでは...」などと持論を展開しては、人気を集め、お金を儲けようとします。ちまたの就活本や、就活マナー講座、グループディスカッション講座、就活セミナー、...に踊らされる学生にとっては、たまったもんじゃありません。

でも、そのカオスな状態から、本当に必要なものや真実を取り出し、周りに流されずに意思を持って活動していく人が、いい会社に内定するんじゃないかな〜と、そう思います。